●2003.9月● 役得にあずかりたい(最終回)
真面目一本槍人間のつまらぬ悩みを聞いてください。私はマスコミ界に入って10年になりますが、いわゆる役得というものにあずかったことがありません。今までそれでいいという信念でやってきましたが、同僚たちがうまくやっているのを見るにつけ、自分の生き方があまりにもかたくなに思えてきました。マスコミの役得とは、業者から金を受け取る、新人の女性タレントと遊ぶといったようなこと。そういうことができる立場でありながら、いっさいに背を向け、真面目一本槍の自分はなにかソンをしてきた気分です。信念一筋の人生にも疲れてきました。どうすれば柔軟に人生を楽しめるようになれるのか、笑わずに教えていただければ幸いです。
(34歳 マスコミ・広告 男)

●今井雅之のアドバイス●

僕もマスコミ業界のひとりですけど、役得というのはあとからついてくるものだと思うんです。僕が考える役得というのは“おネエちゃんにモテる”とか“混んでるレストランで無理してでも優先的にテーブルをあけてもらえる”とかその程度。でも僕自身、そんな“顔パス”になりたいとは思ったこともないよ。仕事の内容を認めてもらって顔が売れるより、そんなムシのいい願望が先行しては意味がない。仕事関係でタレントのネエちゃんと知り合う、業者からお金をもらう……そんなオイシい目に遭えてしまえば“やったね!”という幸せな気持ちにならなくもないやろけど、それっていかにも薄っぺらいんやないかなぁ。ディレクターやプロデューサーでそんな奴がいたら、カルすぎて信用できへん。むしろカッコ悪いよね。

まず自分の仕事の目的は何なのかをはっきり見極めんと。役得のために働いているように見えては、どんなにいい仕事をしても認めてもらえないでしょう。だから例えば僕だったら、仕事より先にオンナにモテたいとは思わない。そしてなによりもいい作品を作りたい。作品がよければたくさんの人が見てくれて僕のことを覚えてくれる。つまり、顔が売れるということです。いい作品を作る努力をした結果、“打ち上げでたまたま銀座に飲みに行ったらおネエちゃんに囲まれた”“気づいたら女優さんにモテてた”と。そういうもんでしょう? 役得なんてあくまでオマケですよ、オマケ。

「業者から金を受け取る」というのはキックバックのことをいってるんだと思うんやけど、それにはやっぱりいい仕事をせんとね。仮に僕の場合なら「おたくの俳優さんがうちの映画に出ると観客動員数が伸びるから」とか「あなたが出演すると充実して視聴率が上がるから、うちのドラマにぜひ出ていただきたい。出てくれれば私のギャラの半分はあなたに返しますから」とか。脱税でつかまるまでになるには(笑)、やっぱり仕事で評価されないと。いい仕事をしていれば、有名女優だってついてくる。黙ってても寄ってくるよ。

「信念一筋の人生にも疲れてきました」? たったの10年でかぇ? 「ソンをしてきた気分」? おかしな考え方ですよ。そんなカルい気持ちでいい仕事は絶対にできません。自分の能力や人生にプライドをもつことです。もしかしたら仕事に不満があるから役得の方に目が行っちゃうんじゃないですか? もしもあなたが「ラッキー! トクしちゃった」みたいなことがいっぱいある人生が“柔軟に人生を楽し”んでいることと思い込んでいるとしたら、勘違いですよっ!

本来のあなたのような“信念一筋”がいちばん大切。望むものは何でもすぐに手に入る役得生活はうらやましいと思うけど、そういう芸能人はスポンサーの意向で私生活を制約されたり他局に出演できなかったり、しょせんカゴの中で飼われたカナリアみたいなもの。自由がない。僕は役得を期待しない代わりに自由で、2時間ドラマやヤクザ映画に出演するのに飽きたら自分で好きな方向へ行ける。それこそ僕は信念一筋で生きてるわけだから、役得は結果論。仕事中はまったく意識の中にない。モテたいけど、それが目標じゃないんでね。

と、まぁ、熱血今井節が出たところで……このコーナー、今月で終了でゴザイマス。なんと2年もみなさんの質問に答えてきました。答えながら僕自身も“ははぁ、俺はこう考えてたのか”と改めて職業観や人生観に気づくこともありました。みなさんには僕の意見、参考になりましたか? さぁ、これからもお互いに頑張って、悔いのない仕事人生をゲットしような!