●2004.11月● 一生忘れない出来事
 
11月1日(月)

NYもすっかり秋も深まり、街中の木々の葉も落ち始めてきた。NYの秋といえば映画「オータム・イン・ニューヨーク」である。私もリチャード・ギアとウイノナ・ライダーをマネして紅葉の綺麗なセントラルパークを歩かなければいけない。いつでも行けると思うとこれがなかなか行かれないものである。ちょっと前、来たときはまだ紅葉というには早かった。あの時はそういえば、向こうから見たことある綺麗な女性がカップルで歩いてきて、誰かと思ったらミッドタウンにあるスナックのママさんだった。その店は知り合いの駐在員の方々に連れていってもらったのだが、工藤静香みたいな長い綺麗な髪で軽快なトークでものすごい楽しいオカマちゃんのママさん。女性の私も飽きさせない雰囲気を作るのが上手で感心したしとても楽しかったのでよく覚えていた。その彼女が彼と手をつないでセントラルパークを散歩していた。しかも彼は白人。やるなあ、ママさん。。。。NYでは日本人女性と白人男性のカップルってほんと見ないから。どこで出会ったのかしら。。。と話がそれてしまったが、とにかく今日学校が終わってから勢いよくセントラルパークめがけて歩いた。が、すっかり日没の時間が早まってしまっていて公園に着いたたころにはほとんど暗かった。残念。

諦めて5番街をトボトボ歩き出す。いつ歩いてもここは混んでいる。すると知っている人を発見。日本テレビの解説者の太田さん(仮名)だ! 大学時代のゼミの教授が知り合いなので一度昔お会いしたことがある。TVでよく見かけるのでものすごい知り合いのような錯覚に陥り、図々しく話しかけてしまった。おそらく覚えていらっしゃないだろうけど感じよく応対してくださった。「今回はどんなお仕事でいらしたんですか?」なんて聞いてしまったが、何を寝ぼけたことを私は聞いてしまったのであろうか。明日は大統領選挙なのである。そのレポートに決まっている。数秒後に気付いた私。日本テレビの支局と提携局のNBCがロックフェラーセンター周辺にあるので、さっきまで打ち合わせをしていたとのこと。スケートリンクが眺められるスタバでお茶をしながらしばらくお話を伺う。

今回の大統領選挙は前日の今日になっても、ブッシュ、ケリーのどちらが勝つのか専門家でも判断つきにくい状況なのだそうだ。もし4年前の大統領選挙のように決着が数週間も持ち越されるようなことになってしまっても、太田さんは土曜の番組や日曜の講演会があるので帰らなければいけないらしい。投票権もない私はすっかり選挙のことが頭から抜けていたので太田さんにお会いして、世界中が注目しているこの大統領選のことを再認識させられたのでした。帰国したら汐留の日テレ新社屋に遊びに行かせてもらうことを約束してお別れしました。

 
 
11月2日(火)

今日はいよいよアメリカ大統領選挙当日。私の住むCOOP(共同住宅)の会議室も投票所になっているので、私がインターンに出かけるときから大勢の人が押し寄せていました。興味深かったのが投票所の案内。「投票所はここですよ」というあの紙には4カ国語で書かれているのでした。英語、スペイン語、中国語、ここまでは理解できたのだけど4ヶ国語目が韓国語。NYにはここまで韓国人が浸透しているのか、とあらためて軽い衝撃を受けた。投票所を覗いていたら係の女性が近寄ってきたので、上に住んでいる者ですがちょっと見学させてほしい、と言ったら快くOKしてくれ、簡単な説明までしてくれた。雰囲気は極めて日本のそれに近いけど、大きく違うのは投票マシンがあることだ。古びたプリクラみたいな機械の中に1人ずつ入って、黒いカーテンで覆われた中で投票する。1人あたりそのカーテンの中に入っている時間がエラク長いのが気になった。おかげで各マシンには長い列ができて混雑している。これがよく言われている投票所の混雑を作り出しているのかぁ。

あとで知ったのだが、今回の選挙では大統領のほかにNYの場合、上院議員とかいろいろと20人くらいの中から投票すべき人を選ぶらしく、しかもその旧式プリクラマシンはレバー式。スロットみたいに上から下へレバーを下ろす仕組みらしく、あちこちで「ガラガラガラ」って音が鳴っている。うっかり間違わないように丁寧にやっていたらそりゃあ時間もかかるわけだ。職場の同僚の話では、あるNYの投票所では特定の候補者のレバーが壊れていて動かず、その人に投票したいのにできない、という信じられないことがあるそうだ。でもすべての投票を行わないと機械から離れることができないので、仕方なく故障していないレバーの候補者を選ばざるを得ない、という事態が起こっていたとか。トホホ。コンピュータ式の投票マシンを使用している州もあるけど、そのマシンの製造元は共和党支持なので機械に細工をすることが簡単にできてしまうとかで、それもまたトホホだし。なんでもケリー候補の投票ボタンを押したのに、確認画面で「ブッシュでいいですね?」って出るマシンもあるらしい。うっかりOKって押しちゃう人いるよねぇ。なのでリベラル、アンタイ・ブッシュのニューヨーカーはこの旧式プリクラマシンでいいのだそうです。

 
 
11月9日(火)

先週の金曜日あたりから口の中がおかしくなる。ほっぺの内側がただれたようになって、そのうち舌全体がヤケドをしたような状態になってしまった。日曜日にはとうとう水を飲むのも受け付けないほど舌が痛く、これはおかしいと思って日系の病院へ。でもお医者さんも原因はわからず。こっちにきてから原因不明の症状はこれで2度目だ。一度目は8月に突然全身がかゆくなり、かくとそこだけミミズ腫れのようにただれて数時間後にはあとかたもなく消える。このときもお医者さんは原因はわからないけど何かに反応したジンマシンですね、ということだった。30年も日本でしか生活したことのない私の身体は、突然のNY生活に時々順応しきれなくなるのだろうか。原因がわからないので対策もわからない。

職場のみんなにその話をしたら、みんな心配してくれて原因をそれぞれ考えてくれた。ある人はMSGのせいだよ、と言い、ある人はストレスだと言う。「中華のデリバリランチは夏子はしばらく禁止ね」と真剣に言ってくれる人まで。とにかく原因がわからないので、どれも可能性としては否定できないのでみんなの意見をありがたく聞いていた。おそらく食べ物かストレスかといったところなんだろうけど。医者から出された処方箋では70ドル以上もするうがい薬をすすめられたので買う気がおきず、ルームメイトがくれたハーブの錠剤を飲んだ。これがとっても効いた。彼女はオルタナティブ・メディシンに詳しく、症状にあわせていろいろな錠剤を用意している。私がもらったのはエキネシアというハーブ。とにかく飲んでみるみる元気になった気がしたので、気になってネットで調べたら、ネイティブアメリカンの人たちが蛇にかまれたときなどに使用していた薬らしい。ドイツではかなり普及しているらしくその効果は有名なようだ。確かに今回の異常な症状は2回とも西洋医学の先生の範疇を超えていたみたいだし、ルームメイトのように非西洋医学的に考えてみることも大切なことなのだなと実感。それにしても東洋医学もすごいけどネイティブアメリカン医学もすごそうだ。

 
 
11月12日(金)

シャネルやフェンディのデザイナーとして有名なあのカール・ラガーフェルドが、H&Mでワンシーズンだけのラインを展開するとかで、今日がそのOpening Day。前日から新聞でも大々的に宣伝。先着200名にオリジナルTシャツが配られるとのこと。カール・ラガーフェルドといえば、私の大好きなモデル、クリスティ・ターリントンのドキュメンタリー映画にもたくさん出てくるすごい人。そんな人がH&Mと仕事をするなんて、にわかに信じがたい。H&Mといえば、日本のユニクロをもう少し女性らしくドレッシーにした感じの低価格の世界的なチェーン店(でもなぜか日本には店がないぞ)。アイザック・ミズラヒがオートクチュールやプレタ・ポルテの第一線から退いて、「ターゲット」という郊外型量販店を通して、自分のラインを大々的に展開しているのは有名だけどね。とにかく偶然にもその初日にNYにいるんだし、ミーハーな私は朝早くから並ぶことにしたのでした。

さぞかし大行列ができているだろうと思って、開店2時間前に店の前に行ってみると、まだ15人くらいしかいなくて拍子抜け。とにかく待つこと2時間。寒いし、雨は降っているしでコンディションは最悪。前に並んでいる人たちともうちとけていろいろおしゃべり。フランス系の背の高いほっぺの真っ白なとってもかわいい女の子が前に並んでいた。途中でお腹がすいたらしく洋ナシをかじり出したのがまたかわいくて、写真撮っちゃおうかと思ったけどあやしいからやめた。しばらくしたら彼氏が登場。中村江里子の旦那風のこれまたおフランス系の整った顔立ち。さぞかし、カールの服がにあうんだろうな、っていうカップルでした。

時間を追うごとに人数もどんどん増え、テレビ局のカメラやリポーター、新聞のカメラなども集まり出し、にわかに騒然としてきた。メディアの注目もすごい。H&Mのスタッフはとても親切で、傘を持ってない人に貸し出ししたり、前から30人くらいまでの人にはクリスピークリームのドーナツの差し入れが!! できたてのまだあったかいドーナツは寒空の下で食べるととても美味しく感じた。そして開店少し前には、念願のTシャツが配られる。黒地にカールの自画像のデザイン。店の人がみな着ているやつと同じものだった。と、今日の私の目的はもうこれで果たされたのだが、まさかTシャツだけもらって帰る人なんていないよね。。という雰囲気。誰もその場から立ち去らない。熱気に押された私は、とりあえず開店した店をひととおり見てから帰ろうと考え直した。

開店と同時にものすごい人数が店内に押し寄せる。1階の中心部分にカールの商品が配置されていた。会場にはDJがいてかっこいい音楽がかかっていてムードもよい。なんか戦闘開始みたいなムードむんむん。普段のH&Mとは違う。洋服はセーターやコート、イブニングドレスやブラウスなど黒が中心。でもどれも安い。一番高いドレスで150ドル。カールのデザインでこの値段はありなのだろうか。ものすごい勢いで服が売れているのがわかる。品物を店員さんが補給しても補給してもすぐなくなってしまう。とりあえず気に入ったものを試着することに。試着室で並んでいたら女性が近づいてきて「ニューヨークポストですが取材させてください」だって。ニューヨークポストとは日刊のタブロイド誌。なんか舞い上がっていて何を言ったのかあまり覚えてないが、「日本にはH&MがないのでこのタイミングでNYにいれて嬉しい」みたいなことを言った。

試着してみたものの結局どの服も私のためにデザインされたものでないことがはっきりしたので全て戻して、Tシャツとカバン、サングラスを買った。このサングラス、カールがかけているあのサングラスだ。結局何も買わないつもりが買ってしまった。でもあのカールのデザインのもので自分でも買えるものがあるっていうのがとても嬉しい。いままで私にとってデザイナーズブランドは自分が身につけるものではなく、美術鑑賞の対象でしかなかったのに。この幸福感はちょっと言葉では表しにくい。開店前に2時間並んでいる時に私の前にいたおばさんと帰り際に再会。なんとおばさん全コレクションを買ったらしい。「信じられる?! 全部で2000ドル払ったわ」だって(笑)。

その日の午後の授業で先生とクラスメートに早速自慢。前の日、クラスで私がTシャツゲットしに行こうと思っていると言ったら、ニューヨーカーは並ぶの大好き、イベント大好きだからきっと大変なことになっていて、とてもじゃないけどTシャツゲットは無理じゃん。みたいなことを言われていたので私は鼻高々でした。ちなみに翌日のニューヨークポスト誌には私のインタビューは割愛されておりましたが、店の開店直後を写した写真の中に、洋ナシをかじっていたあのかわいいフランス系の女の子がいました。

 
 
11月20日(土)

バイト仲間のチベット人の女の子ゾルジンが、チベットPartyに誘ってくれた。年に数回、チベットからネパールに亡命して生活している人々に資金援助するために、ドネイションPartyが開かれるらしい。場所はQueens Astria。このエリアには多くのチベット人、ネパール人が住んでいて助け合って生活している。着いた会場はすでにダンスで盛り上がっていた。生まれて初めてたくさんのチベット人、ネパール人をいちどきに見た。

みんなどことなく私の日本人の知り合いに似ている。とてもルーツが近いんだな。この会場に日本人はどうやら私だけらしい。ほとんどゾルジンの知り合いや親戚なのでみんなとっても気さくでフレンドリー。ドネイションPartyだからなんて構えないでみんなすごい楽しんでいるのが伝わってくる。会場の一番奥にDJがいてインド、ネパール、チベット音楽を交互にかけている。ネパール音楽がかかると、みんな日本の阿波踊りみたいな手の振り付けで踊り出した。親近感。そしてDJのそのまた奥には大きなダライ・ラマの写真が飾られてあった。私にとってこれはものすごい衝撃だった。ダライ・ラマの前でダンスをするなんてなんかとてもsexiest thingな体験をしているような気がして。なんとも言えない高揚感と安心感があって、ダンスとダンスミュージックとのミスマッチがSEXYなのだ。今まで味わったことのない感覚。一生忘れないと思う。

チベットの人々は本当にありえないくらいに心があったかい。与えて与えて与えまくる。見返りなんていう言葉とは無縁。その生き方は日本人の私から見ると耐えられないほどだ。ゾルジンも家族を助け、友人を助け、見知らぬチベット人を助け続けている。私のような日本人が忘れてしまっているけど心のどこかにあるあったかい気持ちを、彼らは前面に出して生活している。

その夜はゾルジンの家に泊まった。彼女はボーイフレンドと妹さんと住んでいる。この日は私が来るからとボーイフレンドが部屋を掃除したりしてくれたらしい。すごく気を使ってくれているのがわかる。朝食はチベットのパンケーキとバター茶を作ってくれた。ゾルジンが支度をしている間にボーイフレンドがコーヒーを買いに行ってくれた。戻ってきたら買ってきたのは私の分だけだった。てっきりここの家では毎朝よくコーヒーを買いに行くのかと思ったらそうではなくて、私がコーヒーを飲みたいだろうと思ってわざわざ買いに行ってくれたみたいだ。「チベットではできる限りのことをして客人をもてなす」ってゾルジンが前に言っていたことの意味がわかったような気がした。胸が熱くなる。パンケーキは1枚ずつ麺棒で平たくしてフライパンで焼く。チベットの主婦は家族の人数分×2枚を朝から焼かなければいけないので、とても早起きしなければならないのだそうだ。バター茶はチャイにバターを加えたような紅茶。バターの塩気が初めての味。パンケーキを浸して食べると絶妙な味に。ホットケーキみたいでおいしい。生まれてはじめてのチベットの朝食。これもまた一生忘れられない。

いよいよ12月2日に、私は約1年を過ごしたNYを発つ。

 

(12月へ続く)