●2005.2月● 中尊寺ゆつこさんへ

1月31日に中尊寺ゆつこさんが急逝されました。一ファンとして本当に残念でなりません。今月のこの日記の場をお借りして、まだ信じがたい現実をゆつこさんへの思いを書くことで鎮魂できればと思いました。


 

FEED YOUR SOUL(精神を養え)という言葉はNYで同居していたルームメイトが好きな言葉だった。今から思い起こせばゆつこさんにはたくさんSOULをFEEDしてもらった。私のような一ファンにも本当に優しく接してくださった方だった。

初めてお会いしたのは『アフリカンネイバーズ』の出版記念サイン会。想像以上に小柄な方だなあというのが第一印象でした。ケニアの旅から帰ったばかりの私は、ゆつこさんと直接お会いできたのが嬉しくて、サインをしていただいている間にものすごい勢いでアフリカの話を始めてしまいました。サインを待つ人の長蛇の列ができていて秒刻みでサインをしなければいけないゆつこさんは、私が気を悪くしないようにポストカードをくださり、「続きのお話はここにメイルしてきてくださいね」とおっしゃってくださいました。図々しい私はその日のうちにメイルをしました。そこまではよくある話だと思うのですが、なんとゆつこさんはすぐに返事をくださったんです。「日本でアフリカの話をすると変人扱いされる時もあるでしょ?!」など気さくな内容のメイルをくださり、アフリカの話題を時々メイルでやりとりさせていただくようになりました。実際にアフリカに行った人でないと分り合えない何かをゆつこさんと共有できている気がして、とても嬉しかったのです。ゆつこさんの漫画にも出てくるソマリア出身のスーパーモデル、イマンが来日し、ある宝石店のオープニングセレモニーでイマンと写真を撮ってもらった話をメイルでゆつこさんに報告したら「いいな〜私にもその写真送って!!」とおっしゃって一緒にわいわいしたこともありました。

「自分改造主義」というエッセイ本は私のバイブルとも言える本です。自分を信じて突っ走ってこられたゆつこさんの29歳当時のパワーがみなぎった文章に私は圧倒され、数時間で読みきってしまいました。読んでいた私も29歳だったことはさらに強烈な刺激として私を揺さぶりました。こんなにパワフルにフル回転で生きているゆつこさんをあらためて尊敬しましたし、そのゆつこさんとメイルを交換させていただいている現実にもとても感謝と感激の気持ちでいっぱいでした。早速本の感想をメイルしたところ「若気のイタリーで書いたものだけど直感で書いたことは正しいんだよね」とのこと。ファンを大切になさる方で必ず、本を買ってくれたことへの感謝の言葉がメイルには書かれていて、どんな内容のメイルにも必ずお返事をくださりました。

NY行きを決めた私を応援してくださったゆつこさん。サイン入りのご自身の著書「ニューヨークネイバーズ」をプレゼントしてくださいました。しかも「絶対オススメの場所」のページに付箋をして送ってくださったのです(この本は一生の宝物です)。NYへ渡航したばかりの私はこの本を頼りに活動していたと言っても過言ではありません。食べるところ、買い物するところ、見どころがたくさん詰まった中身の濃い楽しいガイドブックのような存在で、初めての土地で右も左も分からない私にとっては本当に実用的で楽しい思いをさせてもらいました。ゆつこさんじきじきに付箋をしていただいた韓国料理、ベトナム料理、ロシア風呂の三箇所は本当に最高でした。特にイーストヴィレッジにあるロシア風呂は、ゆつこさんの詳しい解説と強いススメがなかったら絶対行かなかったと思います。漫画で描かれている雰囲気そのまんまで本当に楽しいひとときを過ごすことができました。

私が渡航して3ヶ月目にゆつこさんがNYにいらっしゃることになり、私のために時間をあけてくださりお会いすることに。前の日に着いたばかりでお疲れだったにもかかわらず、半日私と共に行動してくださいました。まずチャイナタウンのヴェトナムレストランでご馳走になりました。ここはゆつこさんイチオシのお店で付箋をしてくださっていたお店です。「牛肉の葡萄の葉包み揚げ」を頼んでくださったのですが、これを一口食べて私はおいしさのあまり絶句してしまいました。NYに滞在していたとき、よくこの店に来て大勢の若い人たちにご馳走をしたそうです。ご自身が別の方たちにご馳走になっているのだから自分より若い人たちにはご馳走するのが当たり前だ、とおっしゃっていたのがとても印象的です。NYへ来る飛行機はもっぱらアメリカン航空のエコノミーだったそう。アメリカン航空はたいがい空いているから、3連席を独り占めして横に寝れるので気に入っているとのこと。日本の航空会社のビジネスクラスに乗っても横にはなれないからさ〜。ときっぱり。サインも頼まれないし気が楽だとか。なるほど〜。そのあと地下鉄に乗ってグラウンドゼロへ。途中、駅から目的地に行く間にトイレに行きたくなったとき、ゆつこさんが「センチュリー21にトイレあるよ」と教えてくださり、さすがNYを知り尽くしている方だなとしみじみ。ショッピングセンター、センチュリー21にてお買い物。楽しいおしゃべりをしながらゆつこさんは2人のお子さんのお洋服を買われました。日本では見られないような面白い子供服が所狭しと置いてあり、しかも手ごろな値段。

グラウンドゼロ近くの駅からゆつこさんの滞在先のホテルのある駅まで帰る道中、女同士の本音トークタイム。日本では酒井さんという女性が「負け犬」という言葉をつけて未婚の女性を呼んでいること。でもゆつこさんは、既婚の子持ちでお金があまりない人も「勝ち犬」と呼んでしまっていいのか、と疑問に思っていること。独身生活が長かったゆつこさんが素敵な旦那さまと知り合って結婚するまでのこと。旦那さんやお子さんたちをおいて海外に来ていることで、独身時代に感じたことのない寂しさを感じること…など、素顔のゆつこさんのお話をたくさん伺いました。ゆつこさんを頼りになるお姉さんのように思っている私にとっては、信じられないような時間を過ごしていた瞬間でした。なかでも忘れることができないのは「35歳までには子供を産むといいよ」という話。ゆつこさんは子供を産んだら体調がよくなってお肌もきれいになったらしく、子供は絶対に生んでね、と言ってくださいました。ゆつこさんのようにバリバリ仕事をされ、いそがしく過ごされている、いわば究極の勝ち組みの方から出産を薦められるというのは、私にとってとても新鮮で勇気がわき説得力のある言葉でした。私はこのとき思いました。「35歳までに結婚して子供を生もう」と(笑)。それくらい強い説得力があったのです。ゆつこさんが長男の欧司君を出産された直前と直後にメイルをくださり、「出産は素晴らしいことだから是非夏子さんもいつか生んでくださいね」と言われたことと重なって、私の中に今でもずっしりと存在しています。

最後にはゆつこさんが滞在されていたトランプインタナショナルホテルの部屋までお邪魔させていただきました。こんな高級ホテルの中を見るチャンスなんてもう二度とないかもしれない、という一般人の気持ちをちゃんと汲み取ってくださって、ゆつこさんの方から「ホテルの部屋見ていく?」と言ってくださいました。ゆつこさんはご自身がどんなに有名であろうと、いつも一般人の私のような者の気持ちを汲み取って、理解を示して下さる方なのです。ちょっとだけお邪魔させていただいたお部屋は本当に素敵。大きなベッドのある寝室と大きな薄型TVがあるリビング、それにキッチン。これがかの有名なトランプインタナショナルの内部なのかぁと思わず溜息。ゆつこさんの名前入りの名刺までホテル側で用意してくれるそうで、それもちゃっかりいただいちゃいました。こうしてゆつこさんと過ごしたNYでの半日はあっという間に過ぎたのでした。

私がこの「会社生活の友」のサイトの存在を知ったのは、ゆつこさんのホームページを通してでした。NYでも欠かさずチェックしていた私はある日、日記を書く人を募集しているのを知り、ダメもとで応募してみたのです。「自分を探してニューヨーク」の日記を書けることが決まったときは本当に嬉しかったのを今でもよく覚えています。連載のお話をいただいてすぐゆつこさんにもご報告したらとても喜んでくださって、似顔絵を書くからNYで一緒に撮った写真を送ってくださいと言ってくださったのです。そして描いていただいたのがコーヒー片手にNYタイムズを読む皆川夏子のイラストです。なのでこのイラストは本物の私に限りなく近いです。「ちょっとずっこけ風にしてみました」と言って書いてくださいました。もともと文章を書くことが好きな私が、まさか公共のサイトにこうしてつたない文章を出して皆さんに読んでいただくことができているのは夢のようで、本当に有難いことです。そしてこの幸運への道しるべをつくってくださったのはゆつこさんです。

ゆつこさんが亡くなって早くも1ヵ月が経とうとしています。今でもまったく信じることができません。もっともっとたくさんお話したかったのに。まだまだいろいろ教えていただきたかったのに。残念で悔しくて悲しい。「新作のNYネイバーズ2、英会話本が出るから楽しみにしていてね!」とついこの間メイルをくださったゆつこさん。未公開のイラストの一部を添付で送ってくださったゆつこさん。ずっと前から心待ちにしていた『NYネイバーズ2』が書店に並ぶ前に旅立たれてしまうなんて、本当に残念でたまりません。ご家族の方々のお気持ちを思うと言葉も出ません。ゆつこさんに今まで与えていただいたパワー、優しさにどうやってお礼を述べたらいいのか途方に暮れてしまいますが、せめてこの場をお借りして感謝の気持ちを表したいと思い、筆をとらせていただきました。

ゆつこさん本当にありがとうございました。これからもゆつこさんは私の心の中の光として存在し続けると思います。天国で愛犬サンディと安らかにお眠りください。

 

(3月へ続く)