正社員、派遣社員しながら大学院、ニューヨークでインターン、そしてまた日本へ…。「自分流ワーキング」を探して経験を重ねる皆川夏子(仮名・31才)の日記です。めまぐるしく変わる環境と個性的な人たちの中で、彼女はいったい何を見つける!?
   
●2006.11月● またしても異動
 

11月7日(火)

往復の通勤時間が2時間を越える私はipodを聞きながら、本を読んだりして過ごしているのだけど、今日はお気に入りの曲を1曲繰り返し流していた。本に集中していたのもあるかもしれないけど、同じ曲だけを聴いていると同じ1時間でも短く感じた気がした。そして色々な曲を聴くより通勤疲れが少ないような気もした。私だけかな〜。
 
 
11月10日(金)
友人の誘いで、ある飲み会に参加した。その集まりに来る人はみんなニューヨークに住んでいたり、長く滞在したことがある人ばかりのようで、私も滞在していたことがあるのを友人が思い出して誘ってくれた。ニューヨークのマンハッタン島は山の手線の内側くらいしかない面積なのに、ぎっしり詰まっていて多種多様な人や文化やモノコトが溢れているのでひとりひとりNYに対する興味やよく行くスポットやレストランが違うのがおもしろい。お気に入りのレストランひとつ聞いても、私が聞いたこともないところが挙がったりする。

飲み会に参加していた人の中に、今離婚の協議中という女性がいた。最近身の回りで、離婚の方向に行動をとっている人が多く、しかもそのほとんどが年下で、夫の海外赴任先で別れ話が勃発というケースをよく聞き、ほぉぉなんて思っている。世の中には結婚する人もあれば、離婚する人もいるんだろうけど、別れの話を聞くと、あ〜所詮夫婦といっても他人なんだよな、と思ってしまう。結婚経験のない私は頭の中でぐるぐる色々と考えることしかできないけど。母親は女性が我慢をしなくなったのと経済的に豊かになったからじゃないの、と言っていたが、私にはそのどちらもしっくりこない。「何か」ほかにあるんじゃないかと思う。でもやっぱり「結婚」っていいなと思う。

生まれて初めて思ったのは、子供の頃住んでいたマンションの管理人さん夫婦。旦那さんが天体望遠鏡が趣味で、いい季節になるとマンションに住む子供たちに望遠鏡を覗かせてくれていた。管理人さんのご主人は結婚当初、アルコール依存症で身を崩しかけていた。それを見かねた奥さんがアルコールを断ち切るために星を観ることを薦めたそうだ。そのうち旦那さんはだんだん天体観測に夢中になりすっかりアルコールをたちきることができ、管理人という職業も手に入れることができたのだそうだ。その当時の奥さんの苦労は相当なものだったろうと子供心にえらく感心し、夫婦って赤の他人なのにすごいなと思ったのだ。

あれから20年以上もたったけど、いまだにその「すごいな」が心に残っていて、「やっぱり結婚ていいんだろうなぁ」と思っている。

 
 
11月14日(火)
またしてもプチ異動があった。先月は突然出向になったものの、仕事内容等はまったく変わらなかったのだけど、今回は仕事内容が変わった。同じプロジェクト内ではあるがやることがかわる。今度はPR業務ではなく新しいビジネスの運用チームである。

新しいレストラン施設が立ち上がると一気に雑誌などのメディアからの取材や撮影依頼が殺到するが、数ヶ月たつと落ち着いてくるのでタイミング的にはちょうどよいのかもしれない。いま私が出向している会社は本社の事業をサポートするのが仕事なので、いわば「何でも屋」に近い。組織的に補強しなければいけない場所に重点的に人を注入する。そんなわけで私は今回新しい施設内で立ち上げた「新しいサービス」担当になった。勤務場所もレストラン施設に変わる。

入社してポジションが変わったのは2度目だ。大きな会社だったら考えられない頻度で異動がやってくるのがいいのか悪いのかわからない。また頭の中が忙しくなってきた。給料は上がらないのにやることがどんどん質・量ともに増えていて、いいことばかりではないけど、今はとにかく与えられたことをきちんと行うことを心がける時期だと自分に課すしかない感じ。ただひとつ明確に良いことは、同じチームのリーダーだった例の人と離れられること。やっぱり私の「念じ」が効いたのかしら。。。

 
 
11月20日(月)

今年はモーツァルトのコンサートや出版などさまざま記念事業が行われているが、前にビデオにとっておいた彼の特集番組を昨日みた。彼の曲は明るくて聴いていると気分がいいので前から好きだった。ニューヨークにいたとき、マンハッタンの摩天楼をバックにした川に浮かぶ船での演奏会を聴いたときもとてもよかった。彼の生きた時代はアメリカが国として独立した時期と重なるのだなあ、と思いながら聴いていたのを思い出した。

特別番組だったのでCMにも彼の演奏が使われ本当に2時間ずっと彼の曲が耳に流れていたからか、今日、会社にいても耳に残っていて、そしてなぜか頭がすっきりとよく働く感じがして、仕事もてきぱきとできてかなりはかどった感じがした。番組に出ていた、私の大好きな脳学者さんがモーツァルトの曲の脳への影響についてなどを語っていたが、私には本当にプラスの影響があった気がする。会社の同僚は「モーツァルトを聞くと眠くなる」と言うけど、私は逆で活性化する。母親は私が胎内にいるとき、よくクラシックを流していたというから、そんな影響も少なからずあるのだろうか。クラシックを聴くと、心の奥底で懐かしいような涙腺が緩むような感覚が生まれる。無意識の領域で胎児の時の記憶が蘇るのだろうか。

 
 
11月28日(火)

私の大好きなJAZZピアニストの加わっているバンドを聞きに行ってきた。会社は半休をとって、万全の体制で臨んだ。

JAZZのライブハウスってチケットを買った順番よりも、当日早く並んだ順番に好きな席に座れることが多くて、ここもそうみたいだった。なのでがんばって1時間前に行ってみた。一組すでに来ていて、私と友人は2番目だった。開始15分前くらいになったころ、会場が開いて入場の時間になった。すると、チケットをもっている人から先にどうぞ〜、というアナウンスがあった。私は直前に電話で購入したのでチケットなしの人だ。私たちより後ろに並んでいる人たちがぞろぞろと入場している。。。3番目に並んでいた人が「電話で言われたのと違う。並んだ順番に入場と聞いたから早くきたのに」と店の人に文句を言った。

私たちと同じことを思っていた。私も同じようなことを主張し、一緒にいた友人も一緒になって言ってくれていたが、そこにおじいちゃんオーナーがでてきて「あーだこーだ言わなくても大丈夫!ちゃんと観れますから、心配しないの。細かいこと言わない!」とか言い出して、意味不明な展開になってきた。声から察するにこのおじいちゃんが、電話で並んだ順だと言った張本人。もう頭にくるやらあきれるやら、いい席とれなそうでがっかりするやらで、とにかく最後の方の順番で中にはいった。

私がピアノの前あたりがいいと、言い張っていたのでおじいちゃんもかわいそうに思ったらしく、ここがいいとか、いや、こっちのがいいとか色々と世話をしてくれた。でも薦めてくれる席が全然気に入らないので自分で決めた。座ってもしばらく世話をやいてくれようとするんだけど、もうこの席でいいからと何度もいうはめに。そうこうしているうちに仲良くなって、このおじいちゃんは私たち2人にドリンクをサービスしてくれた。すこしは気分もよくなり、いよいよ演奏がはじまった。

は〜〜〜10ヶ月ぶりの彼の生演奏。。。もう言葉にならない。。とにかく嬉しくて嬉しくてにこにこしながら彼と鍵盤の指を見つめていた。帰りに彼らを乗せるためのタクシーが外に止まっていて、待っている間、運転手さんが話しかけてきた。これから車に乗る人は誰か?有名な人たちか?と聞かれたりしているうちに、その運ちゃんは自分の息子もピアノを演奏するという話をしてくれた。私が「これから車に乗る人は有名なピアニストですよ」なんて話をしているうちに本人たちが姿をみせ、運ちゃんはそそくさと車に戻っていった。でもまた再度私たちのほうに戻ってきて「うちの息子は○○といいます。今度聴いてみてください」と言った。

大切な息子さんを思う優しいパパだなあと思って、家に帰ってきてその○○さんをネットで調べてみた。かなり実力派のピアニストらしい。CDも何枚も出していて、まだ20代にしてかなりの期待をされている人のようで、第三者の評価もかなり高かった。そして、あのパパと顔がよく似ている。間違いなくあのパパの息子はこの人だと確信した。今日聴いてきた、私の大好きなピアニストも一昔前は○○さんのように若くして高評価されていたのを思い出し、二人の重なる部分を感じた。そして何より、未来の日本を代表するピアニストのパパさん運転手のタクシーに、今のアメリカを代表するピアニストが乗ったという偶然がとっても素敵だなと思った。

 

(12月へ続く)