●1999.7月● 美容師にクドかれた!
7月1日(木)

新しい部長がやってきた。何年か地方に行ってた人が、昇格して戻ってきたのだ。顔を知っているくらいなので、どんな人なのかよくわかんない。でも、みんなの前での挨拶がやたらと長かった。つまり話の長い人なんじゃないかな、お小言を頂戴しないように用心しとこ。おまけに一昨日の前部長の送別会は、どんよりと暗かったんだって。そりゃそうだ。本人だって出たくて出ていったわけじゃないし、引き抜かれたわけでも、昇格人事でもないんだもん。そんな夢も希望もない送別会より、美容院にいって大正解。さあ、今度はいつ美容院に行こうかしら。

7月8日(木)

久々の登場、「去年の新人ちゃん」ことT美が、会社を辞めたいと言い出した。本人にしてみればかなり本気で、思いつめているようなの。去年入った時から五月病すらかかってないんだから、遅すぎるんじゃないの、なんていう本音とは裏腹に、Y君が一緒に話を聞いてやろうというので、おつきあいしましたよ。本当は他人の心配なんかしていられないはずなのにさ。私だって誰かに心配してほしいのよ、大丈夫だよっていつでも言ってほしいのに、とりあえずT美の話を聞きました。

T美の話はよくわかるんだけど、それは社会にでて働いている以上仕方のない事ばかり。自慢じゃないけれど私だって他のOLだって、それどころかY君だっておじさんだって、みんなみんな感じていることなのよ。だってそうでしょう、仕事が終わんなければ帰れないの。それで彼とうまくいかなくなって別れても、仕方ないじゃないの!その彼の事、ひきずっているのは自分なんだし、新しい出会いなんてそんなにゴロゴロしているわけじゃないの。仕事だって、そんなにポンポン任せられたりするわけないのよ。2〜3年は、修行中なんだから。その間に人のやり方をみて覚えたり、いろんなケースを体験して学習するしかないじゃない。私だって、もう少し謙虚だったわよ。初めは言われた事をこなすだけで精一杯だったし、だんだん自分だったらどうするか考えていたし、それだって機会がなければ口にすることさせしなかったのに。まったくT美の感覚には、ついていけないわ。すべてお膳立てしてもらって、注目や認知されたいってことじゃない。そういかないなら、もっと気楽に働きたいって事なのよね。この「アイドルタレント感覚」と「学生バイト感覚」のミックスが、後輩なのかと思うと情けなくなってきた。言いたくないけどT美なんて、そんなに精神的プレッシャーがあったわけじゃないじゃない。私が入社した頃は、とっくに男女雇用均等法があったにも係わらず、上司はどう女性を扱っていいのかわかっていなかったし、他のセクションの野郎どもには迷惑そうな顔をされたりもしたんだから。社内がこんなんだから、クライアントだって似たようなもの。誰も迷惑だとか足手まといなんだとか、信用できないなんて言わないから余計始末が悪い。何度、悔し泣きしたかわかんないわよ。

うんうん、と話を聞きながら決心しました。これからは愛の鞭でT美を鍛えよう。きっとY君も同じ気持ちだと思うな。私たちが何を言っても「わかっているんですけど…」ばかりだったからね。そんなに言うんだったら、黙ってやめるでしょ。甘ったれのT美に接したせいかY君が、ぐ〜んと頼りがいのある大人に見えてしまった。なんかいつの間にか成長したって感じ。前は頼りないような自信がなさそうなところが、かわいかったのに。もしかしてY君を大人にしたのは、私かもしれないなんて勘違いしておこかな。

7月16日(金)
やっぱり先週から梅雨なのね。5月からずつと天気がいい日が続いていたから、今年は昨日の大雨と打って変って、今日は気持ちいい日でした。もう7月も半ばだというのに、まだ梅雨明けしてないのよね。いつだってそうなんだから。ずっと夏を待ち焦がれて寒い寒い冬を過ごして、もうすぐ夏だと思わされてるけど本当はうっとおしい梅雨が長いのよね。そしていざ夏になると、暑くてたまんないわけ。もういいよ、秋にいってと思ってしまう。最近は不景気でタクシーにも乗れないから、スーツだと大変。暑いのも大雨も。昨日履いていた靴なんか、もう形が崩れてしまったもんね。

そんな諸々のうっとうしさを吹き飛ばそうと、美容院に行ってきました。もちろん予約もしたし、店長を指名しておいたもんね。染めようかマニキュアにしようか悩んだんだけど、店長の意見に従ってマニキュアにしました。全体的に少し茶色にして、顔の輪郭に沿ってメッシュっほくもう一段明るい色を入れたんだ。そしてこの前のお約束通り、お店が終わってから2人で飲みにいってしまった。美容師って、最近もてはやされてるからいい気になっているのかと思えばそんなことなくて一安心。素直に喜んでてますます意欲的になっているらしくて、好感度も一気にアップしてしまったのだ。

私ってけっこう芸術家みたいなところがある人が好きみたい。彼、Sさんも子供の頃から図工とかが得意で、なんとか賞をもらった事があるって言ってたもん。仕事でもマーケティング部門や制作部門とかが出てくると楽しいし。もちろん私やY君みたいに営業部門にいるからって、考える事はいろいろあるわけだけど…。とにかくSさんとは当たり前のように、携帯の番号を教え合ってまた合う約束をして別 れたわ。私に彼がいないってこともバレバレだし、お洒落だし、優しいし、けっこういい気分でいたら大変なことが起こった。なんと私の部屋のレースのカーテンに、ゴキブリがへばりついていた。さっき窓を開けた時に、飛んできたらしい。ゴキブリを追い払ってから、もしかしたらさっきのゴキブリは夜這いをかけたSさんの変身した姿なのかもしれない、なんて不吉な考えが頭をよぎってしまったじゃない! 

7月27日(火)

梅雨が明けたら、いきなりハイジャックだもんね。とんでもない世の中だよね。とんでもないことなら、まだまだある。あんまり言っちゃいけないけど、ビゲンヘアカラーの広告の左側の女の人って、とんでもなくない?あの目の上がり方といい、眉の形といい、彼女見て私もビゲンヘアカラーしようと思う人がいるのかな?でもこれは第2弾なのよね、前のはもっとアップだったんだから。それから山野愛子の広告。山野愛子が亡くなったせいもあるかもしれないけど、日本の広告っぽくないよね。それにもっととんでもないのは、キムタクとミポリンが結婚するって言い切ったうちのテレビ媒体部門のヤツ。4ヶ月も黙っていたけど、ミポリンなんてスタイリストと噂じゃない。もう一つおまけに、「海の日」なんてとんでもないものつくるから、Sさんに会えなかったじゃない。でも、それよりもとんでもないのは、実は私かもしれない。Sさんと付き合おうとなった途端、Y君も気になるんだから。今日だってSさんがお休みなのに、Y君とT美と他の人とで、いつまでも残業しているっていうんだから…。


(8月へ続く)