| すごく落ち込んでしまいました。私をとことん落ち込ませたオヤジ、謝れよ。銀座をボーっと歩いていたら、声をかけてきたの。前屈姿勢だったので、道でも聞かれるのかと思ったら、一応ナンパだったんです。もごもごと「急いでいないんだったら、お茶でも飲みませんか」だって。無難に、今から用事があるからとやんわりと断ったんだけど、そいつが再度チャレンジするんです。地方から出てきて新幹線で帰る予定なんだけど、まだ時間があるとかなんとか。確かに嘘ではなさそうなんだけど、私だって大嘘をついたわけではないんです。必要なものがあったんだから。用事があるのは本当だし、お茶する時間がないことも言いました。ちゃんとお話しして失礼したのに、振り返るとそのオヤジがついてくる。たまたまかな、なんて思ったのが甘かった。私がお店に入って何気なく外を見ると、そのオヤジがボソッと突っ立っているの。こっちを伺いながら。買うものは決まっていたんだけど外に出るのが嫌で、必要以上に念入りに検討してしまったわ。チラチラ確認するたびに、突っ立っているので30分もかかってしまった。さすがにもう、お店の前にはいなかったんだけど前後左右そのオヤジがいないかどうか確認しながら歩いたので、クタクタよ。その後で考えてみたら、一気に脱力しましたね。だってさ、ただの寂しいオヤジなんだもん。せっかくナンパさせるなら、もう少し考える余地がある人がいい。だってさ、「他人はあなたを映す鏡だ」なんて言うじゃない。ということは、ねっ。かなり落ち込むでしょう。そう、私がすべていけないんだわ。だからさ、もう少しどうにかならなくちゃいけないってことよね。見ず知らずのオヤジのせいで、目を向けたくない現実を少しだけ見てしまったような気がするわ。
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