●2003.2月● 花粉症、困ります。
 
2月3日(月)
いきなり節分です。一年に一度のことですが、今日のこの日は忘れられない日になって頭の片隅に残っていくんだろうな。今期の予算がなんとかなりそうだ、という目処がついた安堵感と疲労感でいっぱいの私を待ち受けていたのは、節分という行事を終えた母でした。毎年豆をまかれる私の帰りを待っていると、豆まきができなくなることを恐れた母が取った行動が問題なんです。玄関に思いっきりブチまかれた豆を踏んづけて砕いたことも、たぶん誰かの靴の中から数日後に出てくる豆のことでもありません。いい年をした母と同じく、いい年をして鬼のお面をかぶって張り切っただろう父のことでもありません。そんなことは、どうだっていいの。誰かに見られたとしても、恥ずかしいのはあの人たちだもん。

帰る早々、テーブルに置かれた豆を勧められながら聞かされた、衝撃の事実。それは「鬼は外、福は内!」が、勝手に捻じ曲げられていたことです。どう変えられていたかを口にするには、かなりの勇気が必要なほど。だって「鬼は外、男はうち!」にしたんだって。あ〜あ、すべては終わったという感じです。なんたる浅ましさ。なんたる露骨さ。恐れを知らない人たちは、怖いよ。打ちのめされました、泣きそうになりました、旅に出たくなりました。なにもかも私のせいじゃない、って本気で思います。親を憎んで、生霊になってしまうかもしれない。鬼がいて聞いたら、正体なくすくらい笑われるんだろうな。辛いよ、ほんと。
 
 
2月13日(木)
暖かい日が続いて、少しは人間らしさを回復しています。どん底と思ってもよく考えてみれば、今までにも似たような経験をしてきたんですもの。なんでもなかったことにはできないけれど、まあ、まあ、まあ、で片付けたことにしていました。あくまでも自分のために。気持ちを切り替えるために、まず髪を切りました。

ところが、美容師が花粉症だった。髪型の希望を聞きながら、髪をカットしながら、ずっとずっとグスグスと鼻をすすっているんだ。しかもすするだけではどうにもならないようで、何気に袖口を鼻に押し当てている。何度も何度も。「もう下がってよい!」と言ってしまおうかと、真剣に考えたわよ。なんだか、髪になすりつけられているようなんだもん。ほんとよ、それくらいどうにもならない状態なの。あまりにも怖くて、鏡が見られなかった。客にこんな気を遣わせて、そのうえに、本当に…されていたら、悲しすぎるわ、ヤバすぎるわ。

しかもですね、早く帰りたい一心で、またまともに鏡を見たくない心理的作用で、カットされた髪型でOKしてしまったの。ところが家に帰って恐る恐る見てみると、髪形が変なんだ。カクカクしていて髪が自然な形で流れない。あきらかに求めていたものとは、違う。前回のカットが気に入っていたから、そのままで切って欲しかったのに、そんなささやかな要求も受け入れてはもらえなかったのね。バレンタイン直前、これでよしとするのか? だいたいそんな必要はあるのか? わからないよ。
 
 
2月21日(金)
撮影の立会いで、スタジオ続きの日です。スタジオは、寒い。スタジオの椅子は、疲れる。でも、撮影は好きです。心配しながらも、楽しい。クライアントと話しながらも、間を持たせる技が必要とされるけれど、やっぱり楽しいよ。完成に一歩一歩近づいているわけだし、関係者が集まってみんなの真剣な顔も見られるからね。たとえクライアントのお寒いジョークでも、たいていはニコニコして切り返せるもんね。夜になると、顔にも疲れが出てくるから笑顔もこわばるけれど、それも連帯感でしょう。とにかく現場での進行状況やチェックよりも気をつけなくてはいけないのが、意外に間をもたせるための話題なのよね。なんとなくのお約束は、こんな日にしてしまうものなのよ。今日のお約束は、宿題なのよね。ということは、また宿題をつくってしまったわ。
 
 
2月27日(木)
あっという間に、月末がやってきました。月末を無事に乗り切ることと同じように、花粉症患者から逃れることは大切なことよ。周りでも何人もいるから、用心しなくちゃいけないの。くしゃみ、鼻水のタイミングを正確につかんで、対応するでしょう。相手の行動をそれとなく確認しながら、書類なんかを受け渡しするでしょう。飲み物、お弁当といった直接口に入れるものがからんでいる時は、とくに慎重にならなくてはいけないわけよ。あんまりあからさまなことで、5月からの人間関係にひびは入れられないしね。こうして本来の業務以外にも、気を遣っているのよ。本人が一番辛いのはわかるけれど、少しはこちらの辛さもわかってもらえるかしら? 私のように、花粉症といってもくしゃみ、鼻水ではなく、目が充血してかゆくなるだけの人間もいるんだ。そのかゆみとは、人間性を破壊するかと思うほどなのに、同情もされなきゃ関心ももたれない。同じ花粉症なのに、目立たないようです。そうしてもうひとつ、目立たないお仕事が控えているのだ。名前考えなくちゃいけないんだわ、馬の。
 

(3月へ続く)