ありそうにない幸運というのは、めったな事ではありえないの
に、ありそうにない不運というのは、けっこう高い確率で遭遇し
てしまうものね。しかも、同じ会社生活を送っていても、その中
で不運に見舞われやすい人がいるのはなぜかしら…。
きのうのクライアントの担当者は、ひどかった。今までさんざ
ん話し合いながら進めてきた次の広告キャンペーンなのに、自分
の上司の一言で平気でうちの会社を裏切る。おまけに名指しで、
うちのY君のせいにした。役員の前で必死に自分の立場を取り繕
うクライアントの担当者を、誰もどうすることもできなかった。
部長も次長も私も。嵐が過ぎ去るのを、ひたすら待つしか道はな
かった。そっと隣のY君を見ると、机の上に置かれたタレントの
資料を見つめてうつむいている。会社に戻ってからも、みんな妙
によそよそしい。そりゃあそうよね、この世の終わりみたいな顔
しているY君にかける言葉なんて見つからない。
その夜、お酒を飲みに行っただけなのに、あんな事になるなん
て…。Y君は同じ部の後輩なんだもん。いつもは明るくて、私に
ブルー入っている時なんかさりげなく元気づけてくれる、いいヤ
ツなのよ。きのうは、私もどうかしていたの。つきあっているわ
けでもないのに、こんな事ってはじめて。同情というのとは違う、
と思っているんだけどなぁ。あの時、ただ見ているだけで何もで
きない自分が、イヤだったの。言葉にできない、強さとか弱さと
か悲しさとかのいろんな感情を、伝えたかった。抱きしめてあげ
たいって、ごく自然に思った。ずっと社内の人間とは安易にそん
な事にならない、って思っていたんだけど…。
不思議なことに今日、Y君と顔を合わせてもけっこう平気でい
られた。男とか女とかを超えて、同じ感覚になれるのは、それし
かなかったような気が、今でもしてる。彼も同じ気持ちだった、
と思いたい。それとも軽い女だと思われちゃったのかな。とにか
く、後悔はしていない、今のところ。