●1997.4月● ある夜の出来事
4月1日(火)

 とうとう消費税が5%になりました。私に、断りもなく。なる べく大きな買い物は、済ませておきたかったんだけど、小さな買 い物も特別しなかった。だって、大きいといえばやっぱり不動産 でしょ。一生一人で生きていく決心したわけじゃないもんね。そ の証拠に、式場や婚約指輪や家具も高くつくのね、もったいない なんてぼやいていたんだから。いくら焦ってみたって、今の私に は電撃でも間に合わなかったけどね。そろそろ、どこかにいい人 はいないの?昔の言葉でいえば、私も立派なオールドミスなのよ。 たーいへん!!

4月4日(金)

 あれだけ苦しんだ花粉症とも、やっとおさらばしました。とな ると、春爛漫は桜でしょうが!桜を愛でる気持ちをなくしたら、 日本人じゃないということで夜桜見物に行きました。同期の女の 子とその友達との6人で。その中に、すごくきれいな子がいたの。 女の私から見ても、目が離せなくなるという感じ。きれいな子が そばにいるだけで、心が弾むというのは女同士でもあることなの ね。もちろん咲き誇る夜桜も美しかった。ただし、桜の木の下で 宴会をやる人達がいなければ、もっとよかったけど。何が悲しく て、地ベタに座り込まなきゃいけないのかしら。しかも、春とは いっても夜はまだ冷え込むのにね。こういう日本のサラリーマン の姿を見せられると、不満はあるもののウチみたいな会社でよか ったと思ってしまう。やれ花見だ、社員旅行だ、ラジオ体操だ、 なんてつきあっていられませんもの。

 散々うろついていたら、寒けがしてきた。食事をしてもまだゾ クゾクするので、軽く飲みにいくことにしたら……まさか、こん なことになるなんて夢にも思っていなかった。会社のことや、男 のことで、盛り上がっていたの。先に帰った子もいたんだけど、 私はどうせタクシーだと思っていたし、だるくてグズグズしてた の。気がついたら、もう2時近かった。そしたら超美人が、家に 泊まっていけばいいよというわけよ。彼女をずっと見ていたんだ けど、ユラユラと漂っているような、なんとも不思議な感じなの。 ほんとうに、これで仕事しているのなんて信じられないような、 夢の世界で生きているみたいに。途中のコンビニで買い物して一 人で、彼女の家にいったの。

 すこしおしゃべりして、シャワーを浴びてから寝ることになっ たの。片づいていたけど、1DKでしょ。寝るといっても、ベット は一つ。私は、どこで寝てもよかったんだけど、とにかく一緒に 寝ることになった。10分くらい経ったころかな。彼女が「もう、 寒くない?」って言うの。大丈夫と答えたものの、そうでもなか った。ただでさえ狭いのに、そのあと体を密着させてくるの。気 のせいじゃなかったわよ。私の腰のあたりにあった手を、だんだ ん移動させるの。腰から肩から、そして胸へと。もう、びっくり。 心臓は バクバクしているのに、何も言えなかった。寝たふりし て手を払おうとしたけど、寝ているはずないよね。そんな事、彼 女だってわかっている。ピンチだったわ、ほんと。もう、朝まで 一睡もできなかった。もう、朝が来ないのかと思えた。体はほて ったようにあつかったけど、風邪のせいよね。そのくせ朝になる と普通の顔しているの、お互いに。それしか方法はないけれど、 まるでうまくいかなかった男と女みたい。とにかく、むちゃくち ゃカルチャーショック。

4月18日(金)

 新しい体制の部になってから、2週間が経った。今度の部長で すか?穏和そうな人です。あまり細かいことに、口を出さない方 じゃないかな。裏を返せば、トラブッた時に助けてくれるかどう かで、資質が問われているのですよ、部長。

 それよりも何よりも、私にはあの金曜日が忘れられない。あの 手や足の感触。あれから何度も何度も反芻してしまったわさ。街 でも会社でも、今まで見なかったような目で女の人を見てしまう。 ふっくらとした唇ややわらかそうな肌に目がいってしまう。私も あんな風なのかなと、自分の中で女である部分を感じさせられて しまった。ああいう世界があることは知ってたけれど、自分の近 くにもあったなんて。彼女のこの趣味は、人の知るところになっ ているのかな。いろんな疑問がドンドン湧いてくる。まいった。 とにかく私は、女より男がいいな〜。


(5月へ続く)